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金角くん、危機一髪!
「金角くんは今日もですか?」
先生が呆れながらも、仕方ないですねと言う。
クラスには何人かのいわゆるヤンチャなYOKAIたちがしばしば授業に出ないことがあるが、金角くんは少し事情が違う。
YOKAI ACADEMY入学前の金角・銀角はいたずら好きな兄弟として有名で、いつも二人でいろんなイタズラをして楽しんでいた。
とりわけ相手の名前を呼び、呼ばれたものが返事をするとその者を吸い込んでしまうという瓢箪を使って、相手を閉じ込めるイタズラは二人の大のお気に入りだった。
そんなある日、二人はいつものようにイタズラ対象を探し、森に入っていた時のことである。
突然七色に光るものが飛んでいくのを見かけた二人は、それを追いかけ、なんと捕まえることに成功した。
七色に光るのは、世にも珍しいカブトムシだった。
銀角は、「なんだ、虫か」と言い、早く獲物を探そうと、イタズラに戻ろうとしたが、金角はそのカブトムシに夢中になり、あらゆる角度から観察した。
そしてこの日を境に、金角くんのイタズラに向けられていた情熱は、一気に昆虫へ注がれることになったのである。
というわけで、金角くんは今日も授業はそっちのけで、森へ入り、珍しい昆虫を探し求めているのである。
ーーーーーー
(森の中)
「今日こそ珍しい昆虫見つけるぜぃ」
今や昆虫博士の異名を持つほどになっていた金角くんであったが、逆に新しい昆虫に出会えなくなっていた。
この森もだいぶ探検し尽くされ、「やっぱり珍しいのはもういないのぉ」とブツブツ言っていると、突然、『ドン!』と言う音と共に、激しい地震が起こる。
「なんだぃなんだぃ!?」
驚いた金角くんは音がした方にすぐさま走り出す。
森の端までくると、この森を知り尽くしているはずの金角くんは、一瞬自分がどこにいるのかわからないような感覚に襲われた。
彼の知る森の端であり、同時にこの島の端「だった」そこには新たな土地が広がっていた。
「なんだぁココはぁ!?」
足元をよく見ると、そこには割れ目があり、確かに元々はココが島の端だったようだ。つまり急にそこに新たな土地が出現したのである。
そこは、一見森のように見えるが、大きなビルのようなものも見える。
次の瞬間、ものすごい速度で、金角くんの目の前を何かが横切る。
と思うと、すぐにフワッといい香りがしてきた。
いい香りに惹かれながらも、その何かを追いかける。
その小さなものは、まるで金角くんを待っているかのように、時折止まってはまた飛んでいく。
前を飛ぶ何かを追いかけているつもりだった金角くんだが、次第に
「いい香りだぁ〜」としか考えられなくなり、その足は無意識に前を飛んでいく「何か」を追っていた。
どれだけ歩いただろうか。
金角くんは足元の何かを踏みつけバランスを崩しよろけた際、支え手に覚えた痛覚により正気に戻る。
そこは森の中にポツンとある広場のような場所だった。
そして目の前にはハチのような蝶のような、見たこともない「何か」が飛んでいた。
しかも無数に、だ。
「おお!何じゃこれはぁ!チョウ?いやハチかぁ?チョウバチかぁ?」
新種の昆虫を見つけたのかとワクワクしながら、じっと見つめていると、チョウバチと金角くんが名付けた「何か」たちが急に集まり、次の瞬間、金角くんに向けて一斉に飛んできた。
いや、飛びかかってきたと言うべきか。
そのあまりの勢いに、金角くんは「うわっ」と声をあげのけぞってしまったが、これが奏功し、間一髪避けることができた。
チョウバチの集団は、すぐさま回頭し、また金角くん目掛けて飛んでくる。
明らかに金角くんを狙っているようだ。
今度は冷静に躱したが、さすがに自分を狙っていることを察した金角くんは、すぐさまその場を離れようとした。
しかし、不意に意識が遠のく感覚に陥る。
あの「香り」のせいだった。
つまりはこうだ。
このチョウバチは他者を誘惑する特殊な香りを出し、自らのナワバリに引き連れていき、最後は集団で襲うのだ。
「ここで意識を失っては、こいつらに襲われてしまう。しっかりしろぃ金角ぅ!」
そう自らに言い聞かせ、何とか正気を保とうとする金角くんだが、先ほどよりも大量の香りが容赦なく金角くんの意識を奪っていく。
このままではまずいと、咄嗟に転がっていた石を自分の頭に打ちつけ始めた。
鈍痛と共に、意識がはっきりしてきた。
「これも長くは続かねぇ。何とかしねぇと」
すぐさま森の中へ逃げる金角くん。
チョウバチも逃すまじと、大群で追いかけてくる。それも凄まじい速度で。
途中何度かチョウバチの攻撃をよけ、その際に浴びてしまう香りから意識を保つため、また石を自分に打ち付けながら、ひたすら逃げる金角くん。
無意識に歩いてきたため、ACADEMYの方角もわからなかったが、とにかく今は逃げることが第一。
「はぁはぁ、このままだとやばいぞぉ」
「アニキ!」
朦朧としながら走っていると、突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アニキ、こっちだ!」
弟の銀角くんが叫びながら手を振っている。
「銀角!来てくれたのかぁ」
「チョウバチに追われてるんだぃ!」
「チョウバチ?」
「銀角、ひょうたんは持ってるかぁ!?」
「おう!いつも持ち歩いてるぜ!」
「よし、それを貸してくれぃ!」
銀角くんからひょうたんを受け取ると金角くんは、チョウバチたちに相対した状態で、ひょうたんの口をチョウバチたちに向け地面に置き、持っていた虫眼鏡で、ひょうたんを覗き込んだ。
「拡大の術!」
そう言うとひょうたんは見る見る大きくなったではないか。
金角くんが持つ虫眼鏡は普段は単なる虫メガネで昆虫観察に使うものだが、実は妖術を込めると虫眼鏡でみた対象物を一定時間実際に拡大させることができるのである。
ひょうたんが大きくなったことで、チョウバチの大群がそのままひょうたんの中に突っ込んで行ってしまった。
あらかたチョウバチが中に入ると、「銀角、今だ!」という掛け声に即座に反応した銀角くんがひょうたんにフタをした。
「助かったぁ〜」
金角くんはそのまま尻餅をつき、仰向けに寝転んだ。
「それにしてもぉ、よく来てくれたぁ、銀角。」
「あぁ、角が疼いてよ。アニキが危ないんじゃないかって。」
そう、二人の角は互いが危機に直面すると、疼くのだ。
その疼きの角度などでお互いの位置も大まかにだが分かるのである。
「それにしてもここはどこなんだ?こんな場所あったか?」
「いやぁ、俺にもわからねぇ」
そう言う金角の目の前にひょうたんに入り損ねたチョウバチが一匹飛んできた。
「一匹だけなら、香りさえ気をつければ怖くねぇ。捕まえて観察しねぇとな」
そういうと、金角くんはさっと飛び起き、チョウバチを追いかけ始めた。
「まだ追いかけるのかよ!」
呆れる銀角くんを横目にあっちこっちとチョウバチを追いかける金角くんであった。
「それにしてもなんでいきなりこんな場所が現れたんだ?」
銀角くんは向こうに見えるビルを見上げながら、ボソッとつぶやいた。
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