Short Stories

座敷童子ちゃんの探し物
「ざ、ざしきわらしが出たぁ!」
日曜のまっぴるま、となりの部屋でおひるねをしてたはずの父ちゃんが大声を上げた。
台所にいた母ちゃんと僕は、目を合わせると、父ちゃんの部屋にかけこんだ。
僕はユウヤ。 自分で言うのもなんだけど、かしこい5歳児だ。
おまけに思いやりもたっぷりある。
5歳にして、家にある絵本はぜんぶ読んじゃったし、父ちゃんの隠してる”ぐらびああいどる”のしゃしんしゅうだって読めたよ。母ちゃんのぶらじゃとはおおちがいだったよ。
「あ、あの座敷童子!お、おれのロレックスをつけてやがった!」
「は?あんた何言ってんの、うちにロレックスの時計なんてないでしょうが!」
母ちゃんはめんどくさそうだ。
でも母ちゃんは知らないんだ。父ちゃんがこっそりゴージャスな、うで時計を隠し持ってたこと。
僕は知ってる。父ちゃんは、僕が知ってることを、知らないと思うけどね。
「い、いや、それはだな・・・」
父ちゃんと母ちゃんは、ざしきわらしちゃんのことはすっかり忘れて、ロレックスの話をし始めちゃった。
ざしきわらしって座敷童子って書くんだよね。
人間じゃなくて妖怪なんだよね。
僕は知ってるよ。かしこいからね。
うちにも座敷童子ちゃんが来てくれたのか。うれしいな。会ってみたいな。
父ちゃんの部屋を見渡しても座敷童子ちゃんは見当たらない。
父ちゃんが大きい声を出すからどこかちがうお部屋に行っちゃったのかな。
やんややんやと言い合ってる父ちゃんと母ちゃんを残して、僕は母ちゃんと僕のお部屋に行ってみた。
ドアを開けてお部屋の中をパッとみわたしてみたところ、それっぽい人?妖怪?の姿は見えない。
ぐるっとお部屋の中を歩いてみてもう一度ドアの方を見る。
そこでふうっと息をひとつ吐いて、呼んでみた。
「座敷童子ちゃん、いる?」
「呼んだかぃ?」
せなかの方から声が聞こえて、僕はふりかえった。
窓から太陽のひかりがたくさんふり注いでいて、小さい子がいるような影しか見えない。
「太陽がまぶしくてキミが見えなくてごめんね。僕はユウヤ、かしこい5歳だよ。キミが座敷童子ちゃん?」
「そうさ。アタイが座敷童子じゃ。」
「座敷童子ちゃん、こんにちは。キミからは僕が見えるの?」
「よく見えるぞぃ。かしこいユウヤ。」
「僕の名前覚えてくれてありがとう座敷童子ちゃん。でも眩しくてよく見えないんだけど、そっちに行ってもいい?」
「アタイが移動してやろう」
座敷童子ちゃんはそう言うと、じゃらじゃらと音を立てながら、なんだか僕自体をすり抜けたみたいに、ドアの方にす〜っと移動してきた。
僕はもう一度、くるっとまわると、今度は太陽じゃない光がまぶしくてパッと目を閉じちゃったけど、ゆっくり細めて目を開けていったら、すぐになれたみたい。
座敷童子ちゃんがハッキリくっきり見えた。
まぶしいはずだ。
座敷童子ちゃんは、着物みたいなお洋服をかさね着してて、アチコチに光る玉みたいなのをい〜っぱいぶら下げてる。
じゃらじゃら音がしてたのはそのせいだったんだね。 長ーい髪の毛にもキラキラ光る何かをい〜っぱいつけてる。
「うーん、この部屋はデンパが悪いのぉ」
座敷童子ちゃんがスマホを頭の上の方に掲げると、手首につけた父さんのロレックスがはっきり見えた。
「光るものをい〜っぱいつけてるんだね」
「アタイが好き好んつけてるわけではないぞぃ。人間に忘れられた物たちの声がやかましいんじゃ。だからアタイの一部にしてるんじゃ」
「そうだったんだね。座敷童子ちゃんはやさしいね。僕とおんなじだね。」
「かしこいユウヤよ、なにゆえアタイを呼んだのじゃ?ユウヤもアタイの一部になりたいのかぃ?」
「ううん。ちがうよ。僕は僕を忘れてないし、父ちゃんと母ちゃんも僕を覚えてるからね。座敷童子ちゃんのお洋服にはくっつけなくていいよ」
「そうかぃ。ではなにゆえ、アタイを呼ぶ?」
「父ちゃんはね。その時計を隠してたけど、忘れてたわけじゃないんだ。大事に大事にしまってたんだ。時々こっそり見るためにね。その時計を見る父ちゃんはものすん〜〜〜〜ごくニコニコしてるんだ。だからその時計を返してほしいんだ。」
「そうなのかぃ?」
座敷童子ちゃんはもう一度右うでを大きく空につきあげた。
ダボダボしたお洋服が肩の方におりて、僕の父ちゃんのロレックスがまた顔を出した。
僕にはロレックスの声は聞こえなかったけれど、座敷童子ちゃんの声は聞こえる。
「ふむ。そうかぃ。おまえさんもそれでいいのじゃな?」
座敷童子ちゃんはロレックスとお話ししてくれたみたいだ。
ダボダボのお洋服から左手を出しもしないで、そのまま右腕に巻いたロレックスをゴソゴソとはずした。
「ほれ。やるぞぃ」
「ありがとう!座敷童子ちゃん!ロレックス!」
「ふむ。かしこいユウヤ。アタイは忙しいからもういくぞぃ。」
「あ!座敷童子ちゃん、ちょっとまって!」
僕は母ちゃんがキラキラの玉を持っていたのを思い出して、引き出しから出して座敷童ちゃんに渡した。
「おかえしにこれあげるよ!時計さんはダメだけど、こっちなら大丈夫だと思うから!」
「おお!そうかぃ?うんうん、おまえもアタイに連れて行って欲しいのか?よし、ではいくとしよう。またなユウヤ。」
そう言うと、座敷童子ちゃんはじゃらじゃら〜ッと音たてながら消えていった。
こうして今、僕の手には父ちゃんの大事なロレックスがある。
さて、どうしたものか。
どうやら母ちゃんが怪しんで父ちゃんを追いつめてるようだ。
仕方ない。まだやんややんやと騒いでいる父ちゃんと母ちゃんのところに行くことにしよう。
「父ちゃん、ごめんね。父ちゃんの大事にしてたお時計さん、腕に巻いて欲しそうだったから、僕、巻いてみちゃった。僕には大きかったみたい」
「お、おおおおおおおーーーー!!!!!おれのロレックスーーーー!!!!!!」
父ちゃんは、何より先に僕の手からロレックスを取り上げて両手でつつんた。
母ちゃんの視線が、こわい。
「…じゃ…ねえや…ユウヤ、ありがとよ。すまんな。」
父ちゃんはそう言うと、嬉しそうに僕の頭をなでた。
「あんた。それは・・・どういうこと、だい?」
母ちゃんが低い声でゆっくりと話しかける。
こういう時のかあちゃんはとってもこわいんだ。。。
父ちゃんがんばれ・・・
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「ンーーーーーおかしいなぁ。いつも髪につけていたんじゃが。。。
どこかに落としてしまったのか???」
「おーい座敷童子!いるかぁー!?」
ガラガラっと勢いよく家庭科室のドアが開きながら、大きな声が鳴り響いた。
「なぁ!座敷童子!ジャージのチャックが壊れちゃってよ〜直してほしんだ!あれ?いないのかぁ?」
「うるさいのぉ!誰じゃアタイを呼ぶのは!?」
そう言って座敷童子ちゃんが机の影からほこっと顔を出すと、テニスラケットを振り回しながら夜叉が突っ立っていた。
「おまえさんか。アタイは今忙しいんだ!そもそもアタイが家庭科室にいる時は入ってくるなといつも言っておるじゃろ!」
「いやぁ、思いっきりサーブ打ったらよ、ジャージのチャックが外れちまってよぉ。なおしてくれない?」
「だからアタイは忙しいといっとるじゃろ!そもそも毎度毎度おまえさんは、服が破れた、靴が壊れたとアタイに直させるが、どうやったらそんなに壊れるんじゃ!」
「そんなん俺だって知らねーよ。俺の運動神経が良すぎるからじゃね?ほら、ダイナミックだからよっ」
「とにかく今アタイは探し物で忙しいんじゃ!邪魔だから出てけ!」
「なんか探してんの?じゃあ俺も探してやるよ!そんで俺のジャージ直してくれよ!」
そういうと、座敷童子が断る間もなく、夜叉はジャージの袖をまくり、床に四つん這いになった。
「んで?何探すんだ?」
「こんくらいの玉じゃ」
「ビー玉くらいのキラキラのボールを探せばいいんだな?そんなに大事なものなのか?」
「おまえさんには関係ない、黙って探すのじゃ!じゃなきゃ帰れ!」
「おー、こわ。そんな怒んなよ。すぐに見つけてやっからよ!」
そうして探し物を始める二人。
「でもさ、おまえそんなキラキラしたもん、身体中につけてるじゃん。一個くらい別にいらなくね?」
「・・・」
「そんなにいっぱいつけてて、運動するには邪魔だしよぉ」
「・・・」
「どうせまたどっかから新しいのを持ってくるんだろ?」
「アレは特別なんじゃ・・・」
「え?なんか言った?」
「なんでもない!早く探せぃ!」
ちょっと探してはあーだこーだ言う夜叉に対し、無視しつつ、時折うるさいと一喝しながら探し続ける。
「あーもう、腰痛い!」
と言って、夜叉は立ち上がって体をぐーっと伸ばすながら、窓の外を見る。
「早くしねーと、練習終わっちまうよ!」
と言いつつ振り返ると、机の上のミシンを夕陽が照らす。
キラッ。
まぶし!と思い、ミシンに近づいた次の瞬間、
「なぁおまえが探してたのは、ビー玉なのか?」
そう夜叉がいうと、伏していた座敷童子がものすごい勢いで立ち上がった。
「そうじゃ!あったのかぃ!?」
「これか?」
夜叉の指にはキラッと光る玉が。
「おお!それじゃそれじゃ!」
「これってただのビー玉じゃねーか。俺はてっきり宝石かなにかかと思ってたぜ。おまえビー玉でも身につけるのかよ?」
憎たらしいくらいニヤニヤしている夜叉を見て、飛びつく座敷童子。
「これは、特別なんじゃ。あの子がくれたものなんじゃ。」
「あの子?誰だ?普段おまえは声を聞いて持ち帰ってくるんじゃねーの?」
「あぁ、だから声は聞いていないが、あの子がくれたこれはどんな宝石よりも特別なんじゃ」
「ふーん。それよりさ、おまえの探しもん見つかったんだから、俺のジャージ直してくれよー」
「おまえさんは。。。仕方ない奴じゃの。ほれ、貸してみぃ」
そう言いながら、どこなく嬉しそうな座敷童子さんは夜叉からジャージを受け取ると、慣れた手つきで針を取った。
いつものヨカデミの放課後が過ぎていく。
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「母ちゃん、その真珠どうしたの?」
「ずっと前になくしたと思ってたのが引き出しの奥から出てきたんだよ!」
「え?でもそれは座・・・」
「ん?なに?」
「いや、なんでもない!見つかってよかったね!」
座敷童子ちゃんが来た家には福がくる、らしいよ!
ストーリーを読んでいただきありがとうございます!