Short Stories

僵尸娘(キョンシーガール)は諦めない。
「あなた彼女いますか?」
「私のカレシになってください!」
「ねぇ私と付き合って?」
僵尸娘(キョンシーガール)さんが登校してくる男子YOKAIに片っ端から声を掛けるのは、もはや日常の光景だ。
決して嫌われるような容姿ではない、むしろかわいい部類に入るのに、なぜかカレシができない。
その原因は額に貼られた<呪符>にあり、本人はそれを<願いが叶う神のお札>だと思い込み、毎日祈りを込めて新しくしているほどだ。
そんな訳で、男子は彼女からアプローチされると、たとえそれまでとても話が合い、親密度も高まり、どう見ても付き合うような流れであっても、僵尸娘さんから告白されると、さっきまでの二人の盛り上がりはなんだったのか、と思うほど呆気なく振られてしまう。
中には、告白する前から断られてしまうケースもあるほど、とにかくカレシができない。
「どうしてみんなカレシになってくれないの?私ってそんなに魅力ないのかな。。。」
「あぁ白馬の王様、いつになったらお迎えにきてくれるの??」
教室の窓から空を見上げ、白馬の王子様への想いを募らせていると、一枚の紙が僵尸娘さんの顔面を直撃した。
「うわ!なに?」
驚きながら、その紙を見てみると、雑誌の切り抜きだろうか、
『モデル、俳優の次は歌手デビュー!今をときめくSくん独占インタビュー』
というタイトルと共に、超絶イケメンの人間の写真が載っていた。
「お、王子様!」
「私の白馬の王子様!ようやく見つけた!」
ちょうど始業のチャイムが鳴り、先生が入ってくるとほぼ同時に、僵尸娘さんが外へ駆け出す。
「僵尸娘さん、どこへいくの!?授業ですよ!」
「先生、王子様が見つかったの!会いに行ってくる!」
「お、王子さま?ちょっと待ちな・・・」
先生が制する間も無く、僵尸娘さんは走り去っていってしまった。
僵尸娘さんは雑誌の切り抜きにライブの情報があるのを瞬時に見つけ、それがなんと今日だということを見て、飛び出してきたのである。
妖魔ゲート(他のデジタル空間へ繋がっているネットケーブルのようなもの)を通り、ライブ会場のあるメタバースへ。
「そうだ、ここは人間の世界。このままじゃきっとダメよね。変げしなきゃ。」
そういうと「変げの術」と唱え、たちまち可愛らしい人間の女性の姿に。
「これで王子様をゲットだわ」
ライブ会場に到着すると、すぐさま裏口から出入りするスタッフらしき女性に変げし、いとも簡単に関係者エリアに入り込むことができた。
中に入ると、場内マップで控室を確認すると、足早にSくんがいると思われる出演者控室へと向かう。
タタタタタタタタタタ・・・
徐々に足早になる僵尸娘さん。
そこの角を曲がれば・・・
ドン!
「あ!大丈夫ですか?」
「すみません、ステージへ集中してて」
爽やかなイケメンが手を差し出しながら心配そうに僵尸娘さんを覗き込んできた。
それはSくんであった。
『こんなベタな出会い!やっぱりこの人が私に白馬の王子様なんだわ!!』
心の中で思いながら、今にも飛びつきたい気持ちを抑えて、
「だ、大丈夫です。私こそごめんなさい。」
「よかったぁ。怪我させてしまったらどうしようかと。」
本心から安心したように一息つくSくんをみながら、
「あのぉ、私のカレシになってください!」
といつものように我慢できず言ってしまった。
すると、呪符の効果が発動し、
「え?あの、お気持ちは嬉しいんですが、僕これからステージなんで、お体大丈夫なら、僕、いきますね。」
「どこか痛くなったら、僕のマネージャーに言ってください!」
と言いながら走り去ってしまった。
「待ってぇ。。。」
またもや呆気なくフラれてしまった。。。
「王子様、私のことがわからないの?」
もはや勝手に結ばれている二人の設定になっているようだ。
「そっか、もっと綺麗な女性が好みなのかも!」
そういうと、たちまち誰もが振り返るような美人に変げした僵尸娘さん。
「これなら絶対大丈夫ね、ふふ。」
呟きながらS君の楽屋へ改めて向かう。
コンコン。
「はい、どうぞ〜」
ドアを開けるとS君がソファに座り、目を閉じて集中力を高めるかのように、リズムに乗っていた。
「ヘアメイクにきました〜」
「あ、お願いします〜」
Sくんはちらっと僵尸娘さんの方を見て返事をして、すぐにまた目を瞑ってしまった。
すぐにSくんの背後に周り、髪の毛をそれらしくいじりながら、もうすぐにも抱きつきたい感情を抑え、
「最近どうなんですか?気になる女性とかできました?」
と聞いてみる。
「いやぁ、僕は今お仕事一本なんで、女性は今はいいです。」
「またまたぁ。たくさん女性からアプローチされてるでしょう?」
「いやぁそうでもないですよ。」
さっきのは記憶にもないの?と心の中で思いながら、
「じゃあ私、Sくんにアタックしちゃおうかなぁ」
「冗談やめてくださいよ」
「本気よ。私と付き合わない?」
そう言った瞬間、今まで目は閉じたままでも軽快に返事をしてくれたSくんが急に僵尸娘さんの方に振り向き、
「いや、無理です。申し訳ないんですけど、終わったら集中したいんで一人にしてもらっていいですか。」
と真顔で言ってきた。
「え、なんで?」
「あ、マネージャーさん、ちょっといいですか?」
S君は僵尸娘さんから目を逸らすとすぐに電話を始めてしまった。
そこから一言も話さず、見向きもせず、すぐにマネージャーも来てしまったため、僵尸娘さんも渋々離れるしかなかった。
それでも諦めない僵尸娘さんは、そこから何度もいろんな女性に変げしては、S君に接触をするも、結果はいつも同じで、告白やそれに該当する言葉を発した瞬間、今まで笑いながら対応してくれていたSくんは決まって急に断って僵尸娘さんから逃げたり、黙り込んだりと、断られ続けた。
そうこうしてるうちに、流石に立て続けにS君に女性が近づいているということで、Sくんの警護及び会場内の警備が増強された。
結果、僵尸娘さんもS君に簡単に近づくことができず、遂には警備員に見つかり、追い出されてしまった。
「なんでよ!どうして私のカレシになってくれないの?白馬の王子様なのに!」
僵尸娘さんもさすがに少し落ち込み、そのまま道端にしゃがみ込んでしまった。
どれくらい時間がたっただろうか。
「大丈夫?」
不意に声をかけられ、少し驚きながら顔をあげると、目の前にはイケメンが覗き込むように立っていた。
通りすがりの男性が心配して声をかけてきたのだ。
そして、イケメンだ。
そんなイケメンを見て、さっきまでしゃがみ込んでいたにもかかわらず僵尸娘さんは飛び上がる勢いで立ち上がった。
「あなたが本当の白馬の王子様だったのね!」
「え?なんのことかわからないけど、君大丈夫?」
「はい!あなたに出会えたから大丈夫です!」
「ははは、君面白いね。それにかわいいね。ねぇよかったら、アイドルにならない?」
そう言いながらイケメンは名刺を差し出してきたが、僵尸娘さんはその名刺には見向きもせずイケメンに詰め寄る。
「その前に私のカレシになってください。」
ものすごい勢いと、そして呪符の力が発動し、イケメンは咄嗟にのけぞり、少し後退しながら、
「え、いや、あぁ、ごめん。さっき言ったことは忘れて。じゃ」
と言い残し、イケメンは逃げるように行ってしまった。
「もう!なんで逃げるのよ!!」
「あぁ、白馬の王子様。必ず見つけるんだからね!」
先ほどの名刺を拾いながら、そう誓う僵尸娘さんでした。
ストーリーを読んでいただきありがとうございます!
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